小さな町の物語
春のシンフォニエッタそれからしばらく話が途絶え、僕はうとうとしかけていた。
(史郎君、君は誰かとキスした事があるかい)
突然由井の声が僕の心臓を打った。
僕は周囲に拡がる闇をみつめて黙っていた。
と由井の両手がすっとのびてきて僕の頬をはさんだ。
その次の瞬間僕は由井の唇が僕の唇に押しつけられるのを感じた。
かすかに煙草の匂う、由井の温い唇の生々しい感触、
それは激しく僕の肉体を撃った。かっと全身が燃えた。
闇の中で、僕の心臓だけが、どきんどきんと
僕の耳の中で高く鳴っていた。
(いまのは冗談だよ)後で由井はいった。
僕はその時、僕の身内を貫いて走ったその激しい快感の故に、
あえかな罪の匂いを嗅いでいた。